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神戸地方裁判所姫路支部 昭和34年(ワ)126号 判決 1963年11月21日

主文

被告会社が昭和三三年五月一四日姫路市延末姫路中央青果株式会社二階事務所において開催した臨時株主総会における「被告会社の営業を譲渡する」旨の決議が存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨および主文第一項につき予備的に「被告会社の昭和三三年五月一四日の臨時株主総会における『被告会社の営業を譲渡する』旨の決議が無効であることを確認する」との判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告は被告会社の一〇〇株の株主である。

二、被告は昭和三一年三月二六日に設立された、マツチの製造および販売ならびに右に付帯する一切の業務を目的とする、発行済株式総数一〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、資本の額五〇万円の株式会社である。

三、被告会社は昭和三三年五月一四日姫路市延末所在姫路中央青果株式会社事務所において臨時株主総会を開催し、被告会社の営業を譲渡する旨の決議をしたとしている。

四、しかし右決議は次のいずれかの理由により存在しないものである。

(1)  本件株主総会は名義上は代表取締役宮脇峯次が招集しているが実質上は監査役木谷年弘が招集したものである。しかもその招集は通知洩れが極めて著しい。従つておよそ株主総会と目すべきものの成立がない。

(2)  次に開会に際し、開会の宣言、議長の選任等もなく、決議について、これを行う旨の宣言もなく何らの表決もされていないことが明らかである。従つて決議は全然行われていない。

五、仮に決議が存在するとしても次のいずれかの理由により無効である。

(1)  本件株主総会は取締役会の決議を経ずして招集されたものである。

(2)  招集の通知書には会議の目的たる事項が明確に記載されていない。殊に本件総会は当初から営業譲渡を会議の目的としながららその点の記載を欠いている。

(3)  招集の通知洩れが著しい。仮に一部株主に対し口頭による招集通知が行われたとしてもそれは法律上にいわゆる招集通知ということができない。

(4)  本件決議は特別決議であるにかかわらず定足数を充足していない。

(5)  原告、桑原政義、大西重三郎等一部の株主に対し、本件営業譲渡の要素である相手方「三星マツチ株式会社」の存在およびその内容ならびに譲渡の対価の不定または無償を故意にかくして錯誤により議決権を行使させた。

(6)  本件決議は公序良俗に違反する。即ち被告会社は莫大な価値のある営業権の他は何ら財産的価値のものを有しない会社であるところ、右営業権を訴外木谷俊雄の支配の下に置く目的ないしは資産隠匿の目的で、(5)のように一部株主を欺罔するなど不公正な手段により右営業権を訴外三星マツチ株式会社に譲渡したものである。

(7)  本件決議は譲渡の相手方その他営業譲渡の具体的内容が特定されていないから、それ自体営業譲渡の決議の趣旨に反する。

(8)  更に、決議不存在ないし無効の原因として右に述べた各事由が仮に個々的には単に取消事由にとどまるとしても、右各事由の外、木谷年弘は右三星マツチ株式会社の代表取締役であり且つ同会社の株式の過半数は右年弘の父木谷俊雄が支配するものであるから、右年弘は本件決議につき特別利害関係人であるにかかわらず、議決に参加していること、桑原政義大西重三郎および原告は各五万円を出資したにかかわらず自己の意に反して仮受金にされ、これを利用して中塚常雄、妻木徳男らのいわゆる木谷俊雄の支配下の株式をふやしたのであるから、その株式については本件議決については反対に数えるべきであるか、或いは少くとも会社の保有する自己株式として議決権を有しないものと考えるべきであること等の事実を全体として考察するときは、本件決議は濫用にわたるものであつて会社の本質に反する。」と述べた。

立証(省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判求を求め、答弁として、

「一、請求原因中第一ないし第三項の事実および第五項(6)のうち被告会社の営業を訴外三星マツチ株式会社に譲渡した事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

二、本件株主総会の招集手続およびその決議の方法ならびに内容は法令および定款の規定に従つて行われたものであるから本件決議は有効である。即ち、

(1)  本件株主総会の招集は取締役会の決議により総会開催日である昭和三四年五月一四日の二週間前に代表取締役により各株主に通知が発せられている。仮に一部株主に通知洩れがあつたとしてもそれは単に取消事由となるに過ぎない。

(2)  被告会社は資本も株主数も少い小会社で出席株主も熟知の間柄であるからあらたまつて開会の宣言はしていないかも知れないが、これから始める意味の議長発言があつたのであるし、また議長は被告会社の定款第一七条の規定に基き代表取締役宮脇峯次が当然その任に就くのであるから議長選任の必要はない。次に、仮に決議をなす旨の宣言および採決の手続がなかつたとしても議案に対する賛成または反対の議決権の数が法定数に達した事が明らかとなつた以上、賛否いずれかの決議が成立したといい得るのであつて、これを本件株主総会についてみると、営業継続または廃止に関する件、営業割当屯数等譲渡に関する件について株主桑原政義、同大西重三郎、同山口秀太郎が反対し、その他の株主が賛成し、賛成が三分の二以上に達したことが明白だつたのだから、右議案については表決の手続がなかつたとしても有効に可決されたものというべきである。

(3)  原告は本件株主総会の招集通知には何ら決議事項に関する明確な記載がないと主張するけれども、乙第二号証の通知書に営業の継続廃止あるいはそれに伴う譲渡の対策と表示して決議を要する事項を明確にしている。仮にそれが商法第二四五条第二項にいうところの要領の記載に反し、決議の目的事項の記載を欠いたことになるとしても、それは決議取消の事由となつても無効事由とはならない。

(4)  尚本件株主総会の議事録には総会に出席していない取締役妻木徳男、同阿部俊次の署名捺印があつてこの点法令に反するが如き疑いがあるが出席した議長宮脇峯次および取締役桑原政義の署名捺印がある以上その効力に影響がないのであつて仮にこれを無効だとしても議事録の作成は議決の方法それ自体ではないから、議事録の無効によつて決議そのものまで無効となるものでない。」と述べた。

立証(省略)

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